ゆらゆら漂うように泳ぐ金魚の群れ。
計算され尽くした器が金魚によって彩られ、アートに変わる。
味わったことのない空間で、呼吸も忘れてシャッターを切った。
巨大な金魚鉢・屏風を象った水槽に、時間も暑さも忘れ、ただ見とれていた。


#1 金魚 

金魚の歴史はその昔、突然変異で生まれた赤いフナの仲間が、中国で見つかったことから始まった。
今から2000年も前のことだ。
 
通常、銀のような色をしたフナだが、1%にも満たない非常に少ない確率で赤色の個体が生まれた。


#2 日本へ 

金魚が日本へやってきたのは、今から約500年前の1502年(室町時代文亀2年)。江戸時代中期頃までは、藩主や大名、豪商といった特権階級しか持つことはおろか、見ることさえできなかったほど貴重で、高価なものだった。
 
金魚が一般的に広まり、庶民が手に入れられるようになった江戸時代後期になると、金魚そのものだけでなく、浮世絵や家具、着物の柄にも描かれるようになり、ブームが起こった。
 
金魚は人の手によってつくられた観賞魚として、花街を飾る「華」として、また暑い夏には「涼」として飾られ、その命を全うする。


#3 作品群

プリズリウム

多面体にぶつかった光が分散、屈折し、新しい色を形成する。
その新しい光線に照らされた魚は様々な表情を見せる。
 

華魚撩乱

極彩色の群れは切れ間なく川を乱れ舞い、力強いメロディを奏でる。

アンドンリウム

日本の伝統的な灯りの中で遊泳する金魚。
金魚の赤が行燈の中で淡く灯るように浮かび上がり、柔らかな空間を演出する。

ビョウブリウム-屏風水槽-

屏風をモチーフにした空間に水墨画のようなタッチで投影される木々。
水面に広がる波紋の影をバックに泳ぐ金魚たちも影を追加し、目新しい屏風図を描く。

水中四季絵巻

錦鯉が移り変わる季節を巡る絵巻物。
日本の美しい四季折々の情趣を堪能できる。

フラワー² アクアリウム

花瓶と水槽を融合した煌びやかな作品。

禅アクアリウム

日本画をテーマにした繊細で素朴な風情に浸る。

カレイドリウム

多彩なデザインを織りなす万華鏡。

花魁-巨大金魚鉢-

人間が作り出した華や涼を彩る金魚。鉢の中を美しく泳ぐ姿から、その裏に隠した儚さが滲む。
作品の名前は このような感覚を暗に意味したものなのだろうか。
 


アートアクアリウム2012陶酔記

参考文献|木村英智著『アートアクアリウム~金魚の粋~』