私は、萬収集家「ワタナベ」。
名前は、まだない。
いや、ある。そこはかとなく苗字だ。
ここは、私の書斎。
今までに遭遇した全事件記録を収蔵してある。


事件簿その46|重要参考人うめちゃん その14


中学2年。
「敵を欺くには、まず味方から。」を国語の時間に勉強した後、
私:「うめ?敵を欺くには?」
うめ:「え?まず右利きの方から。」
私:「何でちょっと謙遜しとんな!」


事件簿その47|重要参考人うめちゃん その15


2008年、4月。昼下がり。
私は、こう切り出した。
「うめ、最新型のジェットコースターってどんなん?」
うめちゃんは、こう答えた。
「先頭が女性専用車両。」
素敵。


事件簿その48|今晩の寝床事件


2013年8月14日。
実家に帰省の2日前、母から一本の電話が鳴る。
先に実家に帰省していた妹が、おたふくかぜになった。
親戚の集まる宴会も急遽中止。
私はおたふくかぜにかかったことがない。
成人してからのおたふくかぜは、
精子にも影響が出る可能性があるため、
自宅には入れさせられない。
ということで、私は自宅から30メートルほど離れた祖父の家に泊まることになった。
地元に着き、家の前を通る。
庭には父がいた。
父も保菌している可能性があるため、
遠くからお互い手を振るだけ。
何?この味わったことない距離感!!
自宅を通り過ぎ、祖父の家に到着。
久しぶりに話す祖父・祖母との時間が心地いい。
今晩の寝床が気になり、祖母に聞く。
私:「ばあちゃん、おれ今日どこで寝りゃーええん?」
祖母:「二階で寝んさい!」
私:「あれ?ばあちゃん二階で寝るんやめたん?」
ここで、事件が起こる。
祖母:「いや、一週間くらい金縛りが続いて、
怖ーなって、二階で寝るんやめたんよ。」
…。…孫をどこで寝かせよーとしとんな!!
怖くなった私は、明け方まで帰ってこれず、
昼間、寝ることにした。


事件簿その49|ゆっくりうんこ事件


本日の事件の主人公はひでくん。
ひでくんとは小学校からの友人で、
大学に入ってからは地元に帰ると必ずひでくんの家に集まるというのが習慣になってきた。
うめちゃん作、ドラえもんの歌が完成したのも、ひでくん宅だった。
このひでくん、実はLEGEND OF KNOCK OUT の主役、
こうちゃんの記念すべきエピソード第一弾「こえだめ」の原料提供者である。
(訳:ひでくんの家のこえだめに落ちました。)
中学1年の体育祭。
ひでくんは新しい真っ白のスニーカーで運動会に挑むことにした。
入場行進の15分前、
私たちは校庭に転がった、とてつもなく巨大なうんこを発見してしまった。
幼稚だった私たちはその上を飛んだり跳ねたり、
若さという漲るパワーをそのままその物体にぶつけていた。
皆を止めて、ひでくんがゆっくり歩み寄る。
かかとを立て、物体スレスレにゆっくりと時間をかけて、
冷静に、そして勇敢に足を下ろしてゆく。
今までの興奮が緊張に変わっていた。
ドキドキしながら足全体が地面に着くのを見守る。
地面にひでくんの足が着く。
「おおーー!!」
皆は声を上げる。
ひでくんも満足して足を上げた瞬間、やはり事件は起こった。
丸かった物体の端が角ばっている!
嘘のように、曲線がない。
皆はまさかと思いながらひでくんを見ると、
落ち込んでいる!
その日のために新調した真っ白なスニーカーには、
先ほどの物体の一部であろう茶色が綺麗にこびりついているではないか。
次の瞬間、標準的な中学生の反応はこうであろう。
「きたなーい!!」
私たちは円陣を組むようにひでくんを囲み、
「お前、よくやった!よくあんなにじっくり足を下ろした!
今日のお前はどの競技でも活躍できるで!」
と讃えた。
そして体育祭は開幕。
私たちは最高の緊張感で運動会に臨めた。
ひでくんはどんな感情で臨んだのだろう。
あんなに、ゆっくりうんこを踏む瞬間を見たのは、
後にも先にもこの日だけである。
これが後の「ゆっくりうんこ事件」である。


事件簿その50|小松一点買い事件


事件簿その49「ゆっくりうんこ事件」で登場したひでくん、
名字を小松と云う。
本日はひでくんが遭遇した事件についての少し長い報告である。
中学2年。たぶん。
何の題材か忘れたが、学年全員で紙芝居を作った。
これを発表する会が設けられることになった。
さて、誰が発表するか。
今、記憶を辿ると、おいしい役なら当時ほとんどが目立ちたがり屋だったので、
競って立候補するはずである。
この紙芝居で立候補した者はいなかった。
ということは、ボケに運びづらい、割に合わない役だったのであろう。
そこで、紙芝居の発表者を投票で決めることになった。
人数は3人なので、ひとり3人まで記入し、投票しようということに決まった。
全員の票が投じられ、開票が始まった。
3人の名前が書かれている中、
一枚だけ妙なものがある。
それは紙いっぱいを使い大きなひらがなで
「こまつ」
とだけ書かれてあった。
そしてその票は3票として集計され「こまつ」に3票加算された。
ひでくんはへこんでいる。
この票は瞬く間に注目を浴び、犯人探しが始まった。
そしてそれは、互いが互いを疑う「小松一点買い事件」に発展した。
「お前か?」
「いや、違う。」
皆、違う。
誰がひでくんを陥れようとしているのか。
ただ、奇妙だ。
そこに書かれた字は明らかに、
ひでくんの字癖で書かれたものなのである。
今度はひでくんが口々に言われ始める。
残酷なまでに。
「やりたいんなら、立候補すればえかったじゃん!」
「おれじゃないよ!」
「でも明らかにお前の字じゃん!」
…結局、誰が書いたか分からぬまま、その3票が手伝い、
「こまつ」は次順位に大差をつけてトップ当選した。
放課後のホームルームの時間。
先生が「じゃあ、何か他に質問等はありませんか?」
「はい!」
「はい、梶梅くん。」
「小松一点買い事件の犯人は僕です。」
「お前だったんかい!!」
重要参考人でお馴染みのうめちゃんの犯行であった。
クラスが沸いた。
何故ひとりだけ書いたのか。
何故皆「こまつ」とだけ書かれた票をすんなり3票として受け入れたのか。
しかし、字の特徴を上手に掴みすぎていた。
素晴らしかった。
いや、それにしてもかわいそうなのはひでくんである。
「明らかにお前の字じゃなーか!」と責められ、
さらにはトップで当選しまうとは。
後日、ひでくんは素晴らしい発表をした。