私は、萬収集家「ワタナベ」。
名前は、まだない。
いや、ある。そこはかとなく苗字だ。
ここは、私の書斎。
今までに遭遇した全事件記録を収蔵してある。


事件簿その71|検尿事件


中学1年。
検尿があり、
朝学校に着くと、
こうちゃんがそわそわしている。
男勝りのS先生が入ってくるなり、
こうちゃんは先生に駆け寄り、
頭を下げ、謝罪を開始した。
検尿を忘れたのである。
こうちゃんは、その1週間前にも、
給食費と間違え、
塾の月謝を持ってきたばかりだった。
何とか謝罪を終え、
先生が検尿を確認し始める。
ここで事件は起こる。
1つ足りない。
うめちゃんである。
「梶梅!あんた、検尿は!?」
うめちゃんは、先ほどのこうちゃんの謝罪とは対照的にこう答えた。
「え?!出んかった!!」
「出んわけないじゃろーが!!」
うめちゃんはひどく怒られた。


事件簿その72|げっぷおなら事件


何だかすいません。
タイトルが幼稚で。
しかし、タイトルからは想像もつかないほど、
少年「ワタナベ」にとっては今でも鮮明に覚えている事件なのである。
保育園、年長組の5歳のときのこと。
みんなで円になって座り、折り紙を折っているときのこと。
私はおならを我慢していた。
このおならは確実に大きな音がする。
そう思った私は、わずかばかりの経験から得た打開策を頭の中で並べた。
トイレに行く。
いや、うんちをすると言われ、からかわれるに違いない。
小さい子にとって、授業中のうんちはタブーである。
成人してからも言われ続けるような変なあだ名をつけられかねない。
大きい声を出す。
いや、皆がこんなに黙々と折っているのに不謹慎だ。
第一、先生に絶対怒られる。
あ!そうだ。
少年「ワタナベ」はひらめいた。
当時、誰が一番大きなげっぷを出すことができるか。
という幼児期特有の遊びが大流行していた。
そのげっぷを出しているうちにおならをすれば、
みんなも笑うだろうし、音が混ざり合ってばれはしないだろうと。
そして、少年「ワタナベ」は、その時を決断し、実行する。
「ゲッ!
・・・プゥー。」
シーン。
分かりやすく解説するとこうだ。
げっぷ、そして、おなら。
そして、静寂。
何だ。この気遣う静寂は。
少年「ワタナベ」の作戦、大失敗。
2個分連続で恥ずかしい音を披露する羽目になった。
こんな結果なら、おならだけしておけばよかった。
この日、私は、初めて神様を責めた。


事件簿その73|父の金メダル事件


私の実家を建て替える際に、
仮住まいをしていた、私が小学生の頃に起きた事件。
大学に入り、お酒の席で両親から聞いた。
その家は大きなクモや、ヤモリが多く出現する大変な場所だった。
夏のある日、トランクス一枚で寝ていた父は、
強烈な痛みで目を覚ました。
明かりをつけると、ムカデが、
父の金玉を力強く噛んでいた。
すぐに病院に行き、治療を施した父。
2週間後、その痛みも忘れていた父は、
暑さのあまり、対策を緩和し、トランクス一枚の姿で再び眠りについた。
そして、父は再び強烈な痛みで目を覚ました。
明かりをつけると、ムカデが、
父の金玉を力強く噛んでいた。
鋭いアゴで、これでもかと噛んでいた。
治療を受けている最中、父は考えた。
なぜ、その部位ばかり噛まれるんだ、と。
家に戻り、テレビを見たとき、父の中で疑問が解消した。
「なるほど、今年はオリンピックの年じゃった!!
ムカデが金を獲りに来よーたんじゃ!!」
なるほど・・・じゃなーわい!!!
そんなに立派なもんじゃなかろーが!!!
何でその金玉だけIOC公認なんな!!!
やっぱり私はこの人の息子なんだと思った。


事件簿その74|サウナで観た感動的な話の結末事件


事件は2009年12月29日9時、静岡で起きた。
15時まで、6時間の空きができた。長っ!!
とりあえず、大好きな温泉へ。
朝から贅沢にも露天風呂につかり、空を見ている。
それにしても6時間は長い。
私は綿密な計画を立てることにした。
温泉1時間30分、岩盤浴2時間、温泉30分、広間で食事2時間。
完璧。私の立てた計画を感じて、雲もスムーズに流れ始めた。
冬場なかなか流せない汗を流そうとサウナへ。
5分経過。
体中に汗が滲み始める。
10分経過。
汗がダラダラ流れ始める。
サウナ内に設置されたテレビが、
広島の年末の天気は崩れると伝える。
親戚や中学校の同級生に会える喜びを噛みしめながらその予報を聞いた。
しばらくしてサウナの熱で意識が遠くなりそうになる。
いつ出ようか。それとも、もう少し汗を出そうか。
意識を保とうと私はテレビに目をやった。
「西川弘志」。
番組が始まった。
西川きよしと西川ヘレンの2男として生まれる。
15歳で両親の反対を押し切り、俳優デビュー。
3年後、歌手デビューも果たし、
反対していた親に自分の力を証明できたと感じていた。
しかし3枚目のシングルを出す頃には、
自分の周りにいた人が1人消え、2人消え・・・。
下積み時代を経験していない彼にその状況を打開する術はなく、
とうとう誰もいなくなった。
当時誰の言葉にも聞く耳を持たなかった彼だったが、
ある女性の言葉だけは心に響いた。
「このまま芸能界にしがみついていても意味がない。」
そして彼は飲食店のアルバイトを始め、
その女性と結婚した。
お客さんに料理を出したとき、「ありがとう」と言われ、
幼少時代に母ヘレンに料理をつくり、喜ばれたことを思い出した。
これだ。
彼は福岡の料理店で皿洗いから学び、経験を積み、
2008年に和食店「にし川」をオープンした。
彼は言った。
父の言葉「小さなことからコツコツと」の意味がようやく分かったと。
なんて素敵な話なんだろう。
私はサウナの熱のことを忘れ、テレビに熱中していた。
お客さんには毎日、新鮮な食材を、安く食べてもらいたいと考え、
飛ぶように働いている西川さん。
そんな西川さんの健康を一番気にかけている妻。
なんて素敵な夫婦。
しかしここで事件は起こる。
そんな健康のために、私は夫と一緒に青汁を飲んでい・・・
青汁のコマーシャルかい!!!
お申し込みは0120・・・
0120じゃなーわい!!!
おれの感動かえせーーー!!!
余分にかいた汗もかえせーーー!!!
どんだけ感動的なエピソード使っとんな、青汁!!!
飲んでみちゃろーかー!!!
ここで体力を使い果たした私は、
生まれて初めての岩盤浴で、3時間の眠りにつき、
あっという間に、6時間は過ぎていった。


事件簿その75|精密検査事件


冬になると、頭のてっぺんをアイスピックで刺されたような痛みが走ることが続いた。
直近の人間ドックの診断によると脳梗塞の疑いがあり、
2013年2月、脳神経外科に行くことにした。
レントゲンをとり、初めてMRI検査も施してもらった。
診断の結果、脳梗塞の疑いは晴れた。
安堵のため息を吐き出したとき、事件はおこった。
「ワタナベさん、心臓が小さいですね。」
え?え!?
誰がノミの心臓な!!
気の弱さを指摘をされた小心者は、
虚勢を張り強く出ようとしたがやめた。
理由は、小心者だからだ。
話を聞くと、過去に運動をやっていた人が全くやらなくなった場合、
心臓が小さくなるらしい。
確かに大学に入ってからは、ろくな運動もせず、酒に溺れる日々だった。
寄る年波には勝てない。
これからは現状を受け入れて、ウォーキングでも始めよう。
前向きな気持ちになったのも束の間、さらに事件は起こる。
「あと渡部さん、肺が女性ですね。まあ悪くはないんですがね。」
・・・え?え!?
肺が女性!?
どういうこと!?
・・・悪くはないん!?
肺が末広がりになっているのが男性の肺で、
丸まってるのが女性とのことだ。
親戚も女性が多いし、
高校時代も女性の多い文系クラスだったことが原因なのか!?
「あと、ワタナベさん、首の骨が普通より1本多いですね。
まあ悪くはないんですがね。」
・・・え?え!?
え?!一本多い?!
悪くはないん?
ほんまに悪くはないん?
 
医師の診断はこうだ。
冬になると、血流が悪くなる。
脳に血液を送るポンプの役目をする心臓が小さいので、性能が悪い。
さらに脳の前に通過する首に普通より骨1本分の距離があるため、血液が届きにくい。
血液が十分に行き届いていないため、頭が痛む。
 
改善方法はこうだ。
運動をして、心臓を鍛えなさい。
冬場は、血流をよくする薬を飲みなさい。
以上!
 
・・・おい!肺は女性のままじゃないか!!
虚勢を張り、強く出ようとしたがやめた。
理由は、小心者だからだ。