私は、萬収集家「ワタナベ」。
名前は、まだない。
いや、ある。そこはかとなく苗字だ。
ここは、私の書斎。
今までに遭遇した全事件記録を収蔵してある。


事件簿その56|平和戦隊ヒロシマン事件


2007年、広島。
駅のお土産屋さんでも事件は起きた。 
広島をモチーフにした戦隊もののキャラメル。
 


 
早速、メンバーを紹介したい。
 
まずは、リーダー
モミジマンジュウレッド!!
初っ端から何か名前長いけど、抑えて。深呼吸。
まず、広島の銘菓ね!!もみじが紅葉すると赤いので、色はこれで問題ない。
 
オコノミイエロー!!
いわゆる広島風お好み焼きをフィーチャーした戦士ね。
粉の色かの?ギリギリセーフとしようか。
 
ミカンオレンジ!!
瀬戸内のみかんをフィーチャーした戦士ね。
すごい違和感あるけど、ミカンの戦士ね。
オレンジはあくまでも色!
 
ニタニタしながらあら探しをしていた私に、
大事件がふりかかる。
 
そして、白い鳩をフィーチャーした
LOVE&PEACEホワイト!!
・・・ん?ちょっと待って。
もみじ饅頭、お好み焼き、みかん、
愛と平和!?
こいつだけ規模がでかい!!!
ホワイトだけで勝てるじゃろーが!!!
 
ここは名産品じゃないん!?
だって広島の名産で、「海のミルク」と呼ばれとる栄養豊富な「カ・・・
ああーー!!
て、て、敵!!??
カキが敵!!??
大怪獣って。怪獣の「かい」と貝類の「かい」を掛けとん?
うまい!!!
もしかして「海のミルク」とミルクキャラメル掛けとん?
うまい!!!
 
おれも少し考えたくなってきた。
…考える前に、一回大きい声で突っ込ませてください。
モミジマンジュウレッド、
オコノミイエロー、
ミカンオレンジ、
LOVE&PEACEホワイト。
…暖色!!!
 
やっぱりホワイトが常軌を逸して強いけん、名産品に変更しよう。
はっさくイエロー、
レモンイエロー、
ミカンオレンジ、
デコポンオレンジ・・・
柑橘戦隊ヒロシマン!!
暖色の呪縛から逃れられん。
 
尾道ラーメン、呉冷麺、海軍カレー・・・あ、あなごめしは?
あなごめしがええじゃなーか!!決まった!
 
モミジマンジュウレッド、
オコノミイエロー、
ミカンオレンジ、
あなごめしブラウン!
平和戦隊ヒロシマン!!
 
暖色!!!


事件簿その57|宮島にまつわる香り事件


2006年10月、都内某所、事件は起こった。
それはコーヒーを飲んで、
そのあと友人にもらったヤクルトを飲んだときだった。
数分後、口の中がどこかで匂った覚えのある懐かしい感覚にとらわれた。
あれ、これ何だったっけ?!
虫?!カメムシ?
たぶん何かの虫のにおい。
ん??!違う。虫じゃないのー。
あーーー!!
宮島の鹿のにおいじゃ!!!
その匂いの完成度の高さにひとり大笑い。
 
海の潮のにおい+獣のもつオリジナルのにおい
=宮島の鹿のにおい
 
コーヒーとヤクルトでこんなにも混ざり合うのか??
いや、あれだ!!
どうやら昨日の夜中に食べたラーメンの中に含まれたニンニクが健在であった。
…やった!!これで、いつでも宮島に飛んでゆける。
…いや。何を感動している、宮島の鹿!いや、おれ!!
くさい!明らかにくさい!!
なぜあの日に、こんなにおい?
紅葉を知らせる便りなのか。
助けを求める鹿からのメッセージなのか。
それとも私の郷愁の念がこのにおいを醸成してしまったのか。
様々な想いを胸に、丹念に歯を磨いた。
バイバイ、宮島。
宮島の鹿と戯れたことのある方が、簡単に宮島の旅情を思い出せるように、
ここに方程式を書き留めておく。
 

宮島の鹿のにおいを導き出す方程式
海の潮のにおい+獣のもつオリジナルのにおい
=前日のニンニク+ブラックコーヒー+ヤクルト
=宮島の鹿のにおい


事件簿その58|仮眠事件


私の中学校時代からの友人、まこっちゃん。
彼は、誠実で、容赦なく優しい。
中学2年の修学旅行で沖縄に行ったときのこと、
修学旅行と言えば、観光など印象は薄く、
結局、夜の恋愛話や、
先生の目を盗んで夜更かしをして、
仲間意識を深めることに意義がある。
そんな1日目の夜、
私たちはある部屋に、壁伝いに集合し、
夜更かしを楽しもうとしていた。
彼は、日中の観光で疲れたのだろうか、
「おれ、仮眠するわー。」
と言い、壁伝いに自分の部屋に帰っていった。
そして、事件は発生してしまう。
まこっちゃんは、
二度と、皆の集まった部屋には戻ってこなかった。
翌朝、睡眠不足の私たちの横で、
元気たっぷりのまこっちゃんは、
少しばかりムッとしていた。
あの容赦なく優しいまこっちゃんが。
まこっちゃん、ごめん。
だって、どのタイミングで起こせばいいか、
教えてくれんかったんじゃもん。
修学旅行の肝である夜を、
全く味わえなかったまこっちゃん。
聞いた話によると、大学に進学した彼は、
毎年、ひとり沖縄を訪れているらしい。
あのときの仮眠分の楽しみを取り戻すかのように。


事件簿その59|かおなじみ事件


中学3年。
高校受験でこうちゃんと、うめちゃんと初登場まこっちゃんと私の4人は、
同じ高校を受験することになった。
国語の試験問題で、
「私と彼は幼い頃からの顔馴染であったが…」
の、「顔馴染」部分の読みを答えなさいというものがあった。
私は、「かおなじみ」と答えてみせた。
まこっちゃんは、
「がんくんせん」
全てを音読みで答えてみせた。
アンパンマンのような雰囲気で。
うめちゃんは、こう答えた。
「がんくんぞめ」。
新しい染め物!?
何な!
幼い頃からの「がんくんぞめ」って何な!!
文脈完全に無視じゃなーか!!
そして、こうちゃんは、こう答えた。
「がんくぞめ」。
新しい染め物!?
何な!
幼い頃からの「がんくんぞめ」って何な!!
いたずらに染めるな!!


事件簿その60|指揮者事件


中学校からの友人、よっくん。
彼と中学校で出会ったとき、私は初めて肌で天才だと感じた。
テストでは100点の連発、
クールで、スポーツもこなす彼は、絡みづらい存在だった。
そんな彼も、うめちゃん、こうちゃんなどの面々に囲まれて生活し、
中学3年間で、氷は解け、親しみやすい存在になっていった。
そんな彼が、氷を解かし始めた中学1年の夏。
学校では秋の文化祭に向けて、合唱の練習が始まった。
そして彼は指揮者を務めていた。
ピアノはこうちゃん。ド頭で間違えたこうちゃん。
よっくんはその場を立て直そうとして、
NG集の番組を意識してこう言った。
「はい、テイクオフ2!!」
離陸した!!?
しかも、2回目?
飛び立った私たちは、柔らかな風に乗り、
その日、合唱はほぼ完成に近づいた。