私は、萬収集家「ワタナベ」。
名前は、まだない。
いや、ある。そこはかとなく苗字だ。
ここは、私の書斎。
今までに遭遇した全事件記録を収蔵してある。


事件簿その26|LEGEND OF K.O.事件その6


高校に入ってすぐのお盆。
地元のまつりに皆で集合した。
高校で散らばった中学校時代の仲間が集まったことで、
おおいに盛り上がりを見せていた。
こうちゃんはその日、
買ったばかりの真っ白のTシャツを着て登場した。
事件が起こるまでに、15分も経たなかった。
真っ白であり続けることは困難であるが、
そんなにも困難だろうか。
洗えば白を保てる?
いや、そうではない。
洗っても空いた穴は塞げないのである。
小学生の放ったロケット花火が、
こうちゃんの真っ白い服を焦がしたのである。
皆で大笑いしたのである。
小学生の夏休みに対する情熱を、
おおらかに真っ白な心で受け止めるこうちゃん。
涙ものである。
当時を思い出し、こうちゃんはこんな言葉を残している。
「いろんな意味で早かった。」と。


事件簿その27|LEGEND OF K.O.事件その7


小学生時代。
ソフトボールの練習中。
何年生のころか忘れたが、
バッティング練習が終わり、守備練習へ。
こうちゃんがグローブをはめた瞬間、
事件は起こった。
薬指を押さえながらグラウンドを走り回る。
はずしたグローブの中から飛び出す、
スズメバチ。
こうちゃん、スズメバチをも味方につける。
事件の次の日、
こうちゃんは、こう呟いた。
「刺されたの、小指だった。」
彼はやはり神なのだろう。


事件簿その28|LEGEND OF K.O.事件その8


中学1年か、2年。
国語のテストで、またもや事件は起きた。
「芥川龍之介の著作を3つ挙げなさい。」
という問いに、こうちゃんはスラスラと答えた。
テストが返され、こうちゃんは困惑気味の表情。
答えはあっているのに、×がつけられているではないか。
先生はまた、採点ミスをしたと。
いや、先生は間違っていなかった。
こうちゃんは芥川龍之介の著作3つの中に「鼻」を挙げたが、
これが事件のもとであった。
彼の作り上げた「鼻」をじっくりとご覧頂きたい。


田園地帯!??
田んぼ書きすぎじゃろーが!!
こうちゃんは、この事件を思い出しながら、こんな言葉を残している。
「先を急いでしまった。」と。


事件簿その29|LEGEND OF K.O.事件その9


中学3年生。秋の文化祭。
実はこうちゃんはピアノを弾くこともできる。
私たちの中学校は、文化祭で、劇と合唱を披露しなければならない。
特に合唱は一番になった学年が郡の音楽会に参加できるということもあり、勝負の場でもあった。
1か月くらいで台本をつくり、台詞を覚え、そして合唱の練習もしなければならない。
結構ハードである。
その中でもこうちゃんは、学年の代表でピアノも弾くことになった。
学年代表とは言っても、同学年17人しかいない。
なぜ17人?答えはこうだ。過疎地だから。
1こ下全員の家族構成も言えるような過疎地だから。
中学生っぽく、合唱練習の度にふざけて下ネタの替え歌などをしていた。
たぶん、私か親友のうめちゃんだろうが、
「こうちゃん!ラスト音はずせ!」
と言うとこうちゃんはしんみりした卒業の歌だというのに、
きれいに最後、半音高いところをはじき、笑いの期待に応えてくれていた。
それから、本番近くになってもこうちゃんはシャープを弾き続けた。
本番当日、合唱の完成度はかなり高いレベルになっていた。
後輩に負けたくないし、皆そのときだけは真面目だった。
きれいにパートごとが響き、上手にハモっていた。
そして感動のフィニッシュの瞬間、
こうちゃんは素晴らしくきれいにシャープではない楽譜どおりの音を弾き、
見事優勝を収めた。
それから郡の音楽会。
各校の優勝者が集まり、合唱を発表する。
この日も調整は順調で、感動的な歌詞、きれいなハモリ、
そしてみんなの想いを乗せたフィニッシュに…
事件は起こる。
慣れとは恐ろしいものである。
もう言わなくても分かるだろう。
そう、その通り。
シャープである。
感動のクライマックスをたった一音で変えた男。
やはり神はこうちゃんしかいない。
そして本番後、神はこう呟いた。
「無意識だった。」と。


事件簿その30|LEGEND OF K.O.事件その10


2010年の年末。
こうちゃん夫妻は、幼馴染のゆうくんカップルと4人で忘年会を行うことになった。
居酒屋に入り、4人は上着を脱ぎ着席。
5分もたたないうちに事件は起こる。
ゆうくんの視界からこうちゃんが消える。
何と云う奇跡だろうか、こうちゃんの座った椅子が壊れたのである。
数多くある店、数多くある席の中で、さらにまたその中の1つを選択してしまう力。
彼の伝説は、まだ死んでいなかった。