私は、萬収集家「ワタナベ」。
名前は、まだない。
いや、ある。そこはかとなく苗字だ。
ここは、私の書斎。
今までに遭遇した全事件記録を収蔵してある。


事件簿その66|マーガリン事件


私の中学校時代からの友人、よっぺ。
彼の人となりを簡潔に伝えるならば、
真面目で正義感が強い石頭の野生児といったところか。
今日は、中学2年のよっぺが、昼の5時間目の授業で起こした事件。
その日、パンが余り、育ち盛りのよっぺはそのパンを貰った。
授業が終わるまで、待ち遠しかったのだろうか。
よっぺはそのパンについているマーガリンの袋をいじりはじめた。
皆さんは覚えているだろうか、
あの弁当の醤油が入っている4センチ×5センチ、
いや、6センチ×8センチ?
7センチ?
何センチ!!?
ねえ、何センチ!!?
その袋に入ったマーガリンを上に寄せ、下に寄せ、
袋の中で移動するその感触を楽しんでいた。
そして事件は起こる。
よっぺの後ろの席に座っていた友人もりちが、
突然、「あーーー!!!」
と大きな声を上げる。
もりちは、突然奇声を上げたため、先生に怒られる。
もりちは弁解する。
弁解する教科書の上には、
ベットリとマーガリンが乗っかっている!!
事件の経緯を4行で要約するとこうだ。
1.よっぺが手元で弄んでいた袋からマーガリンが飛び出す。
2.勢いよく発射したマーガリンは、美しい弧を描き、よっぺの頭上を越える。
3.後部座席で授業に集中していたもりちの教科書に塊となって落下。
4.もりち、絶叫。
よっぺは自首し、もりちの倍、先生に怒られる。
怒られるよっぺの髪には、
ちょっとマーガリンがついている!!
会場は、おおいに沸いた。


事件簿その67|冷しゃぶ事件


2009年8月。
盆休みの帰省中に事件は起こる。
前日、8度2分の熱が出て、体調を崩していた私は食欲がなかった。
母が帰りの車でこう言う。
「お腹痛いんじゃ。残念じゃね、冷しゃぶ。」
ん?!
今回、おれが帰ってきたら食べさせたかったんかの。
「おいしい豚の冷しゃぶがあるのに。かわいそうに。」
あれ、おれ冷しゃぶ大好物だったっけ!!?
新手の洗脳か?!
食べたかったじゃろうにー。。。みたいに言われても!!!
誰と勘違いしとんな!!!
嫌いじゃないけどー!!!
次の日、体調はかなりよくなった。
母がこう言う。
「何が食べたい?冷しゃぶ作ろうか??」
どんだけ冷しゃぶ推しなんな!!!
2日間で何回冷しゃぶって言よーんな!!!
この前の夏も正月も出たことなーじゃなーか!!!
私は母の言葉に身を委ねて、「食べる!食べる!」と伝えた。
冷しゃぶ、
めっちゃうまかった。


事件簿その68|餃子事件


2009年7月、夏バテを解消しようと入った中華料理屋で事件は起こる。
隣に座っていた社会人の先輩・後輩ペアの話が耳に入る。
先輩がビールを注文する。
話は左利きの話で盛り上がっていた。
先輩:「お前って左利きだよな!?かっこいいよなー!」
後輩:「スポーツ選手だったら重宝されますけどねー。」
先輩:「訓練したの?」
後輩:「箸と書くのだけ左です!何か左のほうが楽だったんですよね。
かっこつけてるわけじゃないですけど。」
ん?
事件の匂いがする。
確かに左利きってちょっと「オッ!!」ってなるけど。
ビールが届く。
先輩:「お前、生ビールじゃなくて、ビンでよかったんだよな?」
後輩:「ビンの方が大人って感じじゃないですか?
かっこつけてるわけじゃないですけど。」
・・・すごい気になるのー。
このおれの注文したカニチャーハンのカニに筋が多いのも気になるけど。
そして餃子が届く。
先輩は後輩に餃子のタレをつくろうと、
小皿に醤油を入れたところで先輩が気付いたようにその手を止めた。
先輩:「あ、ごめん!お前何もつけないんだよな?」
後輩:「あ、そうです。先輩使ってください。
ぼく刺身とかも何もつけないで食べるんですよ。
かっこつけてるわけじゃないんですけどね。」
何でタレつけんで餃子食べるのがかっこええんな!!
刺身は何となく分からんでもないけど。
そんなにかっこつけたいのに、
ネクタイ曲がっとるし!!
何になりたいんな!!
そして、先輩気遣いすぎじゃろーが!!!
かっこつけて大人な態度とるなー!!!


事件簿その69|餅事件


2017年、新しい年の始まり。
正月に浸かった頭をそのままに、仕事始めを迎える方も多いのではないだろうか。
ちょうどランチの時間に私は八王子のとあるラーメン屋に入った。
カウンターに通され、メニューを眺める。
私の座った左隣ではスーツマン2人が注文をしていた。
注文が終わり、スーツマンAが喋り始める。
「昼間から酒飲んでゴロゴロしてたい。」と過ぎ去った正月休みへの想いを馳せながら、
「仕事めんどくせぇ。」とこれから始まる現実へ敵対心を剥き出しにしていた。
2人はおそらく同期で、スーツマンAが一方的に喋り、スーツマンBはTHE聞き役といった感じだった。
スーツマンAの言葉や動きに事件の匂いを感じ、
私は長年しまってほこりまみれになったアンテナを張った。
 
注文したラーメンが運ばれ、2人は食べ始めた。
少し遅れて、私にもラーメンが到着した。
スーツマンAがこう云う。「油、沁みる~!油、うめぇ!」
聞き上手はこう云う。「うまいね!何でそんなに沁みるの?」
スーツマンAはこう云う。
「いや、マジで、正月餅しか食ってないから!!」
・・・これか!?先ほどの事件の匂いの根源は!
ここから湧き出ていたのか、違和感は!!
おれ、最近全然寝てない!に似た自慢節!これに違いない。
聞き上手はこう云う。「マジで?!お前すげーなー!!」
A「スゲェだろ!?マジでお雑煮しか食ってない!!」
ん!?大根、ニンジンは!?
鶏もも肉、三つ葉、なると巻は??
餅以外食っとるじゃなーか!?
 
いや、待てよ。
餅だけを使ったお雑煮をつくる地域の方なのかもしれない。
きっとそうだ!そうでなければ、
あんなに強調して「マジで」なんて言わない。
これは、私のミスだ。早合点もいいところだ。
収集の腕が落ちたものだ。泣きたくなる。
 
そう思ったのも束の間、やはり事件は起こってしまう。
A「マジでお雑煮とカマボコしか食ってない!!」
 
カマボコ食ったーーー!!!
自首したーーー!!
 
早めの「カマボコ」発言に不意打ちを喰らい、
私はむせて、ラーメンを吐き出した。
体裁が悪くなった私は、味を楽しむことを放棄し、
吸引力の変わらないただひとつの掃除機ダイソンのように、
麺とスープを吸い込み、そそくさと店を出るのであった。


事件簿その70|天ぷら定食事件


「平川さん」。
小学校時代のソフトボールの鬼コーチ。
鬼のようなコーチというよりは、コーチのような鬼。
ソフトボールのコーチ鬼である。
私の地元では、「平川さん」の名前を聞いただけで未だに体調の悪くなる友人も居る。
今、同じ練習、教え方を行えば、1日で大問題になるほどのスパルタ指導。
日大の野球部を経験した先輩、
日体大のソフトテニスを経験した先輩でさえ、
「一番辛かったことは何?」
という質問に対し、
「小学校時代のソフトボール」と即答する。
そんな「平川さん」一家と、私は家族ぐるみの交友を持っていた。
ソフトボールの練習中は恐ろしい「平川さん」だが、
オフになると、気持ち悪いくらい優しくなる。
私が小学校2年。
私の一家と、平川さん一家で温泉に行ったときのこと。
ゆったり温泉につかったあと、その宿のレストランで食事。
私は天ぷら定食を頼んだ。
みんなの食事が揃う中、
私の定食が来ない。
気を利かしてくれたのだろうか、平川さんが店員を呼び止める。
「おい!!天ぷらはまだ来んのんか!?」
「はい、少々お待ちください。」
「少々じゃなかろーが!!はよー持ってきゃーがれ!!」
「はい!申し訳ありません。」
平川さん、エンジン全開。まるで、ソフトボールのときのよう・・・。
5分経過。
まだ、こない。
平川さん、店員を呼ぶ。
「おい。まだか?」
「・・・。すみません。お待ちください。」
次の瞬間、事件は起こる。
「もーええ!!天ぷらはいらん!!」
・・・。
・・・。
ん?
「・・・いや、おれの!!おれの!!天ぷらおれの!!」
私は、心の中でこう叫んだ。
そして、私は家に帰り、ごはんを食べた。