私は、萬収集家「ワタナベ」。
名前は、まだない。
いや、ある。そこはかとなく苗字だ。
ここは、私の書斎。
今までに遭遇した全事件記録を収蔵してある。


事件簿その6|奇跡の仮装大会事件


2006年夏、大きな事件が起こった。
前日の親戚との飲みで爆睡の最中。
幼馴染のこうちゃんからの電話で起こされる。
こうちゃん:「仮装大会出ようや!」
私:「仮装大会??まー電話とったけん、出んにゃいけんよね!
出たくなかったら電話出んにゃええんじゃけん。」
地元の盆祭りでは毎回仮装大会があり、
1位には10,000円が贈呈されるらしい。
私もそのとき初めて知った。
1時間バカ騒ぎしてお金が貰えたら一石二鳥である。
こうちゃん宅におじゃまして、変装を開始。
5分後、完成度の低さにテンションが下がりやめたくなる。
しかし、こうちゃんの帰りの新幹線代を何とかしたいので、やるしかない。
何とか着替え、いざ出陣。
会場に着くと、子どもたちに大人気。
「一緒に写真撮って!」の集中砲火。
こうちゃんも「これいけるんじゃないんか!?」
とテンションを維持、上昇させてきたのも束の間、
こうちゃんのテンションが極端に下がる。
何で?と思いながら後ろを振り向く。
ここで私は事件現場を目の当たりにしてしまう。


(実際の事件写真:仮面ライダー:こうちゃん、ゴジラ:私、スティッチ:こうちゃんの父、トナカイ:私の父)
スティッチの衣装とトナカイの衣装を着た、
こうちゃんの父親と私の父親が楽しそうに踊られている!
50過ぎのおじさん2人が、滑稽な動きで。
完成度が違う・・・。
結局、4人とも入賞ならず。
変な達成感はあったものの、
それ以上の虚無感と恥ずかしさに包み込まれ、
汗びっしょりの仮面ライダーとゴジラは敗北の肩を落とし、
お盆の会場を後にするのであった。


事件簿その7|鬼のキーホルダー事件


私の実家のトイレには、
恐ろしい鬼のキーホルダーがある。
夜中に目が覚めてトイレに行きたくなっても、
この鬼のキーホルダーが怖くて、
朝を待った幼少時代。
その実際の鬼がこれである。


怖すぎるじゃろーが!!!
何で敢えてトイレを選んで飾っとんな!!!
見れば見るほど怖ろしい。
幼い頃、何度もこのキーホルダーを飾らないでほしいと考えた。
しかし、この顔の凄まじさにいつも屈伏していた。
時は流れて2007年の11月頃、
私は飲みすぎて、終電を逃し、何故か建物の脇で一晩を過ごした。
冷えたのだろうか、その後からお尻に違和感を感じ始めた。
いわゆる痔っぽい症状である。
その2か月後の正月に実家に帰った際、
いとこの姉に痔のことを話した。
すると、ここで24年間知らなかった事実を突きつけられる。
『「ワタナベ」家は痔の家系なんよ。
けっこう手術しとんよ。
トイレに怖い鬼のキーホルダーあるじゃろ?
あれ、痔に効果があるキーホルダーなんよ!』
・・・。
・・・。
いや、手術しとる時点で効果ないじゃろーが!!!
効果がないんなら外せ!!今からでも外せ!!!
その後、東京に戻ってから、
私の痔のような症状は嘘のように治まった。
24年間の膨れ上がったもやもやが、一気に解消し、
そして正月の自分を恥じた。
「ワタナベ」家の尻の環境を掌る神。
彼は今も実家のトイレで、
「ワタナベ」家の尻の不具合を一人で切り盛りしている。


事件簿その8|グルメ事件


萬収集家「ワタナベ」の大親友うめちゃん。
彼の父はとてもグルメで知られている。
彼の父はタコのゆでかたひとつにこだわるほどの食通なのである。
うめちゃんは、そんな父に、
「今まで一番おいしかったものって何なん?」
と興味深々に尋ねた。
「今まで食べて一番感動したのはのー、
ケンタッキーフライドチキンじゃの!
世の中にこんなうまいもんがあるんじゃー思うた!」
タコのゆでかたひとつにこだわりをもつような食通が!?
うめちゃんの父を育てた父もまた食通であった。
「おじいちゃん、今までで一番おいしかったもんって何なん?」
うめちゃんの祖父はこう答えた。
「わしは、今までいろんなもん飲み食いしてきたけど、
一番感動したのは、
バヤリースオレンジじゃ!
あれは、一回飲んだほうがええで!
もう飲んだことあります!
食通を唸らせる一品は、
案外近くにあるようである。


事件簿その9|銀婚式のプレゼント事件


今から6年前の2007年の事件。
私の両親が銀婚式の年だった。
おめでたいので贈り物を不意に贈ってみた。
包みが届いたらしく、昨日電話があった。
母の話を要約して、綴りたい。
私からの段ボールが届き、
母は妹に
「これ、兄ちゃんから届いたんじゃけど、
洗濯物かね?」
どうやらおれからの郵便物第一位は洗濯物と認識されているようだ。
でも毎回送るコンビニとかでもらった段ボールで届いたわけじゃないのに。
母は続ける。
「もしかして、プレゼントかね?」
お、気付いてくれたか?
母はさらに続ける。
「洗濯物かプレゼントか賭ける?」
妹はこう言葉を投げつけた。
「それじゃ勝負にならんじゃん!」
お前も洗濯物と思っとんかい!
フォローせーや!
そこに父が帰宅。
母が伝える。
「しょうへいから、これが届いたんじゃけど。」
父は間髪いれずにこう言う。
「洗濯物じゃろ?」
おれはどんだけ悪い息子なんな。
よし。いったん落ち着こう。
まず、開けてみよう。
そして、答えあわせしよう。
・・・へこむのー。
へこむけど、おもろいのー。
今度洗濯物送るときは段ボールに赤の油性マジックででっかい字で
「洗濯物」
って書いて送ろう。


事件簿その10|ジャッキー・チェン事件


私に無償の愛を注いでくれる祖母。
私の頼みは何でも聞いてくれ、
さらに、プラスアルファーを加えて提供してくれる、
愛すべきおばあちゃんなのである。
私は、どうしても観たかったジャッキー・チェンのプロジェクトAの録画を頼んだ。
当時、私は映画やお笑い番組をきれいに整理し、見出しも全部付けて、ビデオの保管状態にはかなり気を使っていた。
収集家だけに、収集してお洒落に、きれいに保管されていないと落ち着かない性分なのである。
祖母は快諾してくれ、30分も前からテレビの前にスタンバイし、期を見計らっていた。
2日後、完成作品を観た。
3倍モードにもせず、素晴らしく高画質の絵が撮れていた。
ここで事件は起こる。
その日のプラスアルファーはこれだけには留まらなかった。
私が何を注文したか忘れないように気を遣ってくれたのだろうか。
真っ白なケースに、
油性のペンで、
かなりの達筆で、
こう記してあった。
「ジャキンチェン」
あと一息。
今もそのケースは、
私の実家で、
プロジェクトAに尽力している。