その1|モンキチョウ事件
その2|昼下がりのスイカ泥棒事件
その3|匠の技事件
その4|Everywhere you look事件
その5|父の火消し事件
その6|奇跡の仮装大会事件
その7|鬼のキーホルダー事件
その8|グルメ事件
その9|銀婚式のプレゼント事件
その10|ジャッキー・チェン事件
その11|ゴレンジャー事件
その12|52円の処理要求事件
その13|さくらんぼティー事件
その14|赤福事件
その15|ザ・リッツカールトン東京事件
その16|言葉の壁事件その1
その17|チョコレート事件
その18|プリントTシャツ事件
その19|何でも治すクスリ事件
その20|うっちーの地球儀事件
その21|LEGEND OF K.O. 事件その1
その22|LEGEND OF K.O. 事件その2
その23|LEGEND OF K.O. 事件その3
その24|LEGEND OF K.O. 事件その4
その25|LEGEND OF K.O. 事件その5
その26|LEGEND OF K.O. 事件その6
その27|LEGEND OF K.O. 事件その7
その28|LEGEND OF K.O. 事件その8
その29|LEGEND OF K.O. 事件その9
その30|LEGEND OF K.O. 事件その10
その31|LEGEND OF K.O. 事件その11
その32|LEGEND OF K.O. 事件その12
その33|重要参考人うめちゃん その1
その34|重要参考人うめちゃん その2
その35|重要参考人うめちゃん その3
その36|重要参考人うめちゃん その4
その37|重要参考人うめちゃん その5
その38|重要参考人うめちゃん その6
その39|重要参考人うめちゃん その7
その40|重要参考人うめちゃん その8
その41|重要参考人うめちゃん その9
その42|重要参考人うめちゃん その10
その43|重要参考人うめちゃん その11
その44|重要参考人うめちゃん その12
その45|重要参考人うめちゃん その13
その46|重要参考人うめちゃん その14
その47|重要参考人うめちゃん その15
その48|今晩の寝床事件
その49|ゆっくりうんこ事件
その50|小松一点買い事件
その51|リング事件
その52|夏の日の異臭騒ぎ事件
その53|ガイドの呉さん事件
その54|恐怖のおみくじ事件
その55|広島駅構内の誠実な軽食屋さん事件
その56|平和戦隊ヒロシマン事件
その57|宮島にまつわる香り事件
その58|仮眠事件
その59|かおなじみ事件
その60|指揮者事件
事件簿その1|モンキチョウ事件
これは私の実体験である。
確か、小学3年生の頃。
授業で花を植えるために一生懸命、畑を耕していた。
ひとりが幼虫を見つけた。
先生は言う。
「みんなー、これは蝶の幼虫ですよ!みんなでこの幼虫を教室で育てましょう!」
「はーい!」
虫かごに土を入れ、ふわふわにした土に潜らせ幼虫を眠らせる。
自然に触れることを通じて学ぶ貴重な体験である。
それから2週間程が経過し、朝学校に行くと教室が賑わっている。
私たちの育てた幼虫が綺麗な蝶に変身しているではないか。
みんなは大はしゃぎ。
もちろん私も誰にも負けない興奮ぶりを発揮していた。
先生が来て言う。
「みんな、蝶が狭くてかわいそうだから、自由に飛べるように外に出してあげましょう!」
「はーい!」
靴に履き替え、先生の合図で虫かごを空ける。
私たちが2週間かけて育てたモンキチョウが思いのままに大空に舞ってゆく。
寂しくなった私たちはみんなでそのチョウを追いかける。
素晴らしい光景である。
だが、次の瞬間、私の記憶はスローモーションになり、事件の鐘が鳴る。
私は、一番先頭を駆け出し、チョウと戯れるように走った。
パンッ!!
・・・戯れすぎた。
「蝶のように舞い」とはよく言ったものだ。
突然の低空飛行に反応できず、
パンッ!!
大空に羽ばたいたモンキチョウは私の右足の靴の下で短い命を終えるのであった。
もし飛び出しが遅かったなら。
もし「蝶のように舞い」という言葉を知っていたのなら。
9歳にははっきりと分かる。
これが危機的状況だということが。
「あーあ。」
みんなの溜息が聞こえる。
あれ?
先生の声も聞こえる。
その日私はみんなに無視された。
人は、自分たちで育てるということで愛着を感じ、
生き物の神秘と、
生きとし生けるものの儚さをこうやって学んでゆくのだろう。
みんなに捧ぐ、ごめんなさい。
モンキチョウに捧ぐ、ごめんなさい。
事件簿その2|昼下がりのスイカ泥棒事件
確か、私が中学2年生だったときのこと。
夏真っ只中の昼下がり。
学校のグラウンドから見上げるほどの高い丘に、私たち2年生の学級園がある。
そこでは、1年を通して様々なものが栽培され、夏にはスイカが育てられていた。
皆で耕して丁寧に育てたスイカ。
どれほど甘いのであろう。
広島の学校では、8月6日の原爆投下の日が全校登校日になっていた。
「その日に皆で食べよう。」
長い夏休みの前、担任の先生はそう言った。
しかし、全校登校日の数日前、事件は起こった。
私たちはグラウンドで汗びっしょりになりながら、クラブ活動の練習をしていた。
脱水症状になりそうなほど意識が朦朧とする中、
気を遣って現れたのは、カール似の校長先生だった。
それにつけてもおやつはカールのおじさん似の校長先生だった。
そして疲れている私たちにこう話し掛けてくださった。
「ワタナベくん、スイカ食べるか?あそこで採れたんじゃが。」
私は心の中でこう叫んだ。
「それ、おれらが植えたスイカじゃなーか!!」
「何で勝手に収穫しとんなー!!」
カール校長は30オンスもあろうかと言うほどの大きなスイカを両脇に抱え、
満面の笑みを浮かべている。
私たちは言葉を失くし、真実を伝えられないでいると、カールは、
「いいよ、遠慮せんでも。私が切ってきてあげるけん。」
「・・・食べやすいように!?」
違う!気にかける場所が違う!!
遠慮違いである。
私が遠慮したのは真実を告げることだったのに。
スイカは食べたい。
是が非でも。
おいしかった。
スイカは甘かった。
8月6日、
スイカは、なかった。
カールは、いったい何個の真っ赤な宝石を収穫したのであろう。
事件簿その3|匠の技事件
中学2年だっただろうか。
技術のN先生が赴任してきたのは。
背が低く、青ひげバッチリで、
N先生の容姿は整っているほうではなかったが、
独特の愛らしいキャラクターで、赴任後すぐに生徒の人気者になった。
そんなN先生が初めてつくった1学期の中間テスト。
ここで、事件は起こった。
「次の問いに当てはまる語句を下の(ア)~(オ)から選んで、記号で答えなさい。」
ん?ない!!
選択肢がない!!
皆は息を呑んだ。
選択肢の記号が(イ)~(ホ)で表記されている。
古典!??
随分、趣のあることをしてくれるではないか。
「質問がある人は手を挙げて呼んでください。」
N先生が発したとたん、
生徒4~5人に同時に呼ばれた。
不一致だと。
さらに、N先生のテストは、名前を丁寧に書いたら追加点をくれるという、
画期的なテストでもあった。
50点満点なのに、追加点5点。
名前を書くということがこんなに評価されている場所はあるか?
問題に早くとりかかりたい一心で名前を書くのを後回しにして、
そのまま名前を書き忘れてしまった。
採点不可。
未来ある子どもたちに同じような後悔をさせたくない。
させてはいけない。
そんな過去を抱えたN先生の思いが、
この5点に反映されていたのかもしれない。
1週間後、テストが返却された。
その画期的なアイディアのせいで、
クラスの半分の生徒が、
満点を上回る異常事態になった。
事件簿その4|Everywhere you look 事件
私は小学生の頃から、いや、
物心ついたころからフルハウスが大好きだった。
NHK教育で何度も流れたアメリカのホームドラマである。
高校1年の頃だったろうか。
その中で流れているオープニングテーマが無性にほしくてたまらなくなった。
いとこの兄に頼んで調べてもらったところ、
「Everywhere you look」
という曲名だと分かったが、
アメリカ国内で発売されている、
「Television's Greatest Hits, Vol. 7 」にしか収録されていないとのことらしい。。。
米軍基地で働いている父に敷地内でのCDレンタルを頼み、
「Everywhere you look」
をCDで聞けるという夢を託した。
その夜、父の帰りを待ち侘びた。
そして帰宅した父が手に持っていたのは、
THE POLICEのグレイテストヒッツ。
父は、その中に収録されていた1曲を指差した。
「Every breath you take」。
おしい!
こう叫ぶしかなかった。
叫ばざるをえなかった。
「もう1枚あるで!」
父の言葉に明るい光が見えた。
「Every breath you take」。
現実の厳しさを肌で感じ、
現実は思い通りにならないから面白いんじゃないかと、
自分を説得しながら、
私はその夜、
「Every breath you take」の優しい音楽に、
心の琴線を強く撫でられた。
そして、その日以来、
「Every breath you take」は、私の大好きな曲のひとつになった。
事件簿その5|父の火消し事件
父が、若かりし頃、消防団に入っている時の話。
その日、火事を知らせるサイレンが鳴り響き、
父は、家を飛び出した。
火事の現場が近所だったので、
全速力で駆け付け、
その火事の現場前に一番乗りで待機。
消防車が到着したと同時に、
一刻も早く、消火活動にあたろうと、
正門まで回り込む時間も短縮しようと考えた。
父はホースを片手に、
塀を軽々と飛び越えた。
池にバシャーン。
2番手、3番手・・・
池の中の父を、何人も置き去りにしてゆく。
父も遅れて、火消しに参加。
消火活動が早かったため、
火はほとんど回らずに、消されたそうだ。
父の情熱は、志半ば、池の水で鎮火してしまった。
そんなせつなくもあったかい事件。